映画レビュー『その街のこども 劇場版』
『その街のこども 劇場版』(日本、2010)
評価★★★★★
阪神・淡路大震災から15年後の世界が舞台。
被災した街をただただ歩くという、それだけの物語。
はじめ、『そんなの本当におもしろいの?』って思ってたけど、観たらすごく良かった。
二人の自然な関西弁(佐藤江梨子の方は、内面的なエピソードがたくさんあるためか、若干、舞台っぽい感じになってたけど)が、耳に心地いい。
アドリブみたいな二人のやりとりも好み。
震災のとき、僕はまだ小学生で、何が何やら分からなかった。
そのときのことは覚えてるけれど、それが当時としてはどれだけ大変なものだったか、今はもう覚えていない。
今の僕でも分かることは、震災は、とてもたくさんのものを破壊し、奪っていったんだということ。
それは人の命や建物だけじゃなく、人間関係や絆といった、目に見えないものまで。
被災者にとってそれは、一生消えることのない大きな心の傷になったことだろう。
その傷を乗り越える人、乗り越えられない人、乗り越えたい人、乗り越えたくない人……たくさんいるけれど、誰のもとにも朝日はやってきて、次の日になって、僕らは年を重ねていく。
その街で生まれたこどもはいつしか大人になる。
大人になって、そして、次に生まれてくるこどもたちに、希望を与えなくちゃいけない。
この映画を観て僕は、希望は絶望の中から作られるんだと実感した。
この先、誰のもとにも震災のような、とても辛いことは起きるだろうと思う。
それを乗り越えた人だけが、『偉い』わけじゃない。
それを乗り越えられなかった人でも、自ら前を向いて生きていくこと、それこそがきっと、希望なのかなって僕は思う。
『明日も会おうね』って言った人が、次の日、突然いなくなった。
その人とは、もう会えない。
生と死は、並べて考えられることが多いけれど、もともとフェアじゃない。
死を敗北に置き換えるなら、僕らは負けることを前提としたゲームに参加している。
いなくなった人が『明日キミに会いたかった』その日を前向きに生きるために、きっとたくさん辛いことが起こるであろう世の中を、街の下を、僕らは歩いていくべきなんだろうな。
音楽は大友良英さん。
さすがにすごくいい音楽だったなぁー。