音楽レビュー:Sufjan Stevens "Carrie & Lowell"

Sufjan Stevens "Carrie & Lowell"

評価:★

Carrie & Lowell

Carrie & Lowell

 

2015年、最高のアルバムです。

文句なしです、素敵すぎます。

 

Sufjan Stevensといえば、"Michigan"や"Illinois"のようにアメリカ全土をテーマにしたり、"The Age of Adz"のように(こちらは明確なプロジェクトはないらしいけれど)人間の生死、愛憎、精神や病気等について神々しく歌ったり、合計10枚にもなるクリスマスアルバム(”Songs for Christmas”、"Silver & Gold")を出したりと、スケールの大きいことを今までやってきていた。

それらは、マルチプレイヤーであるSufjanにしかできないことで、さらにどのアルバムも、フォークソングとしての域を越えるもので、前衛的でありつつも懐かしく、牧歌的でありつつも宇宙的であり、様々なメディアから賞賛されていた。

 

そのSufjan Stevens

今回はどんなことをしてくれるんだい? と思って、アルバムを聴いてみたら、第一印象は、まぁ、地味。

それもそうで、今回の作品"Carrie & Lowell"のテーマは、壮大なものではなく、自身の父親と母親。

音数は少なく、アコースティックギターと温かみのあるヴォーカルが中心に据えられていて、そこに消え入りそうな打ち込みの音が響く。

それはまるで死者への鎮魂歌のようでもあり、生者への賛美歌のようでもある。

地味だけど、Vashti Bunyanのように、力強くで美しい歌の数々。

素晴らしい。

実に素晴らしいよ。

ジャスト・アナザー・ダイアモンド・デイ

ジャスト・アナザー・ダイアモンド・デイ

 

 

一番の『素晴らしポイント』は、メロディだと思う。

ここまで美しい旋律の数々は、今までのSufjanのアルバムにもなかった。

Sufjanの歌は、今まで、メロディよりも言葉重視のような傾向があった。いろんな楽器を用いて、お伽話を語るかのような歌い方だったし。だからか、曲名がものすごく長いものがたくさんあった(The Black Hawk War, Or, How To Demolish An Entire Civilization And Still Feel Good About Yourself In The Morning, Or, We Apologize For The Inconvenience But You're Gonna Have To Leave Now, Or, 'I Have Fought The Big Knives And Will Continue To Fight...とか)。

だけど今作は、とにかくグッドメロディーで溢れている。

僕が特に気に入ったのは、"The Only Thing"。


Sufjan Stevens, "The Only Thing" (Official Audio ...

いいねぇ~、素敵だねぇ~。

 

前回のオリジナルアルバムである"The Age of Adz"は、ダイナミックに打ち込みを使用し、ゴチャゴチャしつつもすべてが計算し尽くされていて、世界の始まりと終わりが一緒くたになったような、とても壮大なもので、聴いているだけで汗が出てきた。

……けど、今作は、聴いているだけでぎゅっと胸が掴まされる。

悲しいメロディ。だけど誰かにやさしくしたくなるような、そんなアルバムだ。

9,10,11曲目の流れなんて、本当に最高。なんでこんな曲が作れるんだろう? あと、音の選び方が素敵すぎる。アコースティックギターや歌にまとわりつくような、最小限かつ最適な音の装飾。

完璧です。


Sufjan Stevens, "Should Have Known Better ...

 

今、2015年を振り返って、個人的なアルバム・オブ・ザ・イヤーを作ってるんだけど、この作品は間違いなくトップだし、というか今まで聴いてきた何千枚ものいろんなアルバムの中でも、かなり上位に食い込んでくる。

ちなみにPitchforkのレビューは9.3。さすがだ……。

pitchfork.com