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映画レビュー『恋人たち』

映画

『恋人たち』(日本、2015)

監督:橋口亮輔

評価:★★★★★


映画『恋人たち』予告編 - YouTube

『ぐるりのこと。』、『ハッシュ!』等の橋口亮輔監督の最新作。

Twitterでも書いたけど、この映画は、いろんな制度や環境に組み敷かれている人の希望になるだろう。

 

映画は三人の主人公で構成される。

その三人の主人公は、それぞれ三つの階級(言葉は変だけど)に分けられる。

一人目は、愛する婚約者を通り魔に殺されて、人並の生活すらできなくなってしまった普通以下の男。

二人目は、ファンタジー小説を書くのが趣味で、何もしない夫や嫌味っぽい姑に囲まれて毎日を過ごす普通の主婦。

三人目は、社会的にランクの高いステータスを持ちながらも、同性愛者ということで冷たい目で見られる普通以上の弁護士。

普通以下、普通、普通以上。

この三人は、物語ではほとんど交わることはなく、交わったとしても、理解し合わない者たちとして描かれる。

もちろんそれぞれ、環境も違えば直面している問題も違うし、抱えている闇も違うし、解決の糸口も、ともすればまったく逆だったりする。

けれど僕らはその三人に、なぜか共感してしまうし、感応してしまうし、感情移入してしまう。

誰だって、何かを抱えていて、それを絶望だと呼んで、希望を欲して、でもうまくいかなくて、信じて、裏切られ、傷ついて、死のうと思って、死ねなくて、明日が来て、あさってが来て、一年経って、いつの間にか笑ってたりする。

どんな生活をしていようが、どれだけ時代が変わろうが、きっとみんなそうなのだろう。

 

ネタバレしないように、ストーリーはなぞらないつもりだけれど(そもそもストーリーらしいストーリーってないんだけど)、結末の部分だけふわっと言いたい。

見たくない人は次の段落まで読んでくれればいいけれど――この映画の結末は、悲しいものじゃない。

……と、監督自身も公言してるから、オフィシャルなネタバレだよね。

希望のある終わり方だ。

橋口亮輔監督の映画は、いつも希望をまとって結末を迎える。

この映画もそうだ。とはいえ、ハッピーエンドというわけじゃない。

ハッピーエンドは、きっと彼らにこれから訪れるのだろう。もしかしたら、この映画の結末が示すものは、彼らをハッピーエンドに向かわせないかもしれない。いろんな問題が起きる前兆かもしれない。ハッピーエンドに向かうであろうきっかけは、物語の外でこれから起こるのかもしれない。

けれども、彼らはきっと"うまくいく"。

根拠はないし、伏線もないし、原因もないんだけど、そう信じたいし、同じような立場に立たされたとき、僕らもそれを信じることができる。そう思わせてくれる、とても素敵な終わり方だった。

 

"悪いこと"、絶望なんて称されるそれは、"良いこと"に好転する場合がある。

世の中の悪いことの99%は、どうしようもなくて、どうしようもできなくて、ままならないものだけど、それは100%じゃない。

ときどき悪いことは、良いことに姿を変える。きっかけもなく、ある日急に。

社会学者の宮台真司さんが言うように、この世界はクソで、テクノロジーを発達させたり、政治家を変えたり、問題を解決したとしても、やっぱりクソはクソのままだ。

そして世の中はバカばっかりで、頭の良いやつも、悪いやつも、ろくでもないやつも、要領のいいやつも、やっぱりみんなバカなんだ。

それはどうしようもない事実で、変えることのできない普遍で、だから僕らはクソの中で生きざるをえないし、バカを信じざるをえない。

『生きよう』なんてメッセージはあまり好きじゃないし、そういう映画でもないわけで、みんな生まれたから生きていて、ただ劇中にもあったように、生きている限り、『ぼくはあなたと話がしたいと思う』。

まともに生きることも、死ぬこともできないで、誰かにがんばれって言われるのも虫唾が走るし、かといって成長することもできない。

僕らはクソの中に生きていて、バカを信じざるをえなくて、そうしたら毎日はゆっくりと過ぎていって、まぁいろんなことがあって、いつの間にか"悪いこと"は"良いこと"に姿を変えていたりする。

それは自分じゃ気がつかないかもしれないし、もしかしたら誰にも分からないことかもしれない。

ただ、おもしろいことがあったわけじゃないのに、笑顔になってしまうことがある。

悪いことばっかりの中で、笑顔になってしまうことがある。

それがきっと、良いことの始まりなんだ。

 

と、ここまで書いたけれど、僕は前作の『ぐるりのこと。』の方が好きだなぁ……。

『ぐるりのこと。』が僕にとって特別な作品だから、っていうのが一番の理由ですわ……。

そもそも『ぐるりのこと。』は、一組の夫婦の破壊と再生にフォーカスを当てられていることから、すごく身近な作品だったんだよな。いろんな世界(≒ぐるり)があって、その中から、今、一番間近にいる人が抱えている闇に触れるということ、触れるという心の温かさを、主人公を通して感じることができて、わけもなく涙が出てきた。

あの感覚、本当に忘れられないなぁ。

『恋人たち』は、複数形のタイトルが示すとおり、人々の話なんだよなって思った。でも、だからこそ、いろんな辛い思いをしている人たちの希望の映画になって欲しいし、この映画がきっかけで、少しでも明日から世の中に笑顔が増えればいいなって思う。

音楽はいつものAkeboshiさん。

相変わらずとても素敵な曲でした。

movies.yahoo.co.jp