映画レビュー『キツツキと雨』

『キツツキと雨』(日本、2012)

監督:沖田修一

評価:★★★★★


映画『キツツキと雨』予告編 - YouTube

おもしろい!!

沖田修一監督の映画は、『南極料理人』、『横道世之介』、『滝を見にいく』とこれで4作目だけど、『南極料理人』に次いで好きだわ!!

 

舞台は山奥の村。

主人公は二人いて、一人は村の木こりと、もう一人は映画の撮影のためにその村にやってきた新人の映画監督。

その二人のハートウォーミングストーリー……ってわけじゃなくて、沖田修一監督の味が出まくりな、『本人たちは真面目にやってるんだろうけど、第三者から見ればバカバカしくておもしろい』って感じのユルい雰囲気系コメディ&ヒューマンドラマな映画。

新人の映画監督が撮る映画は、近未来の日本を舞台にしたゾンビ映画

……だけど、予算の都合で人が足りなかったり、子役が逃げ出したり、人手不足だったりして、撮影はどうもうまくいかない。

そんなときに立ち上がったのが、映画なんてまったく知らないけれど、その映画監督と同じ名前の息子がいる木こりの岸さん。

岸さんが、村中の人たちを集めまくる。

そうしたら、もう村中ゾンビだらけってなわけですよ。

 

娯楽なんて特になかった村に、映画の撮影舞台がやってきた。

暇な村人たちは(暇じゃなかったとしても、やりかけてたことそっちのけで)、ゾンビに扮し、見よう見まねで演技をし、……ってなことやってたら、村のおっちゃんもおばちゃんも、なぜか妙に熱が入り、アドリブで演技をカマしたり、ゾンビ部隊のリーダーに抜擢されたりと、てんやわんや。

映画を作る側も作る側で、それまでなぁなぁに、消化試合みたいな感じでテキトーにやってたはずなのに、妙にこだわりを貫き出したり、殺伐としていていた現場に笑顔が生まれたりと、いい方向へ。

本人たちは、いたって真面目なんだけどね。

その真面目のベクトルがすごくバカバカしいことに向けられていて、おもしろい。

そもそも映画って、というか創作物って、バカバカしいものなんだ。

 

こういう『バカバカしさ』は、沖田修一監督の醍醐味だよなー。

登場人物も、アドリブっぽいけどリアルってわけじゃなく、どこにでもいそうなんだけどみんな妙にキャラ立ちしてる。

その絶妙なバランスがおもしろい。

それが極まってたのが、『南極料理人』だったけども。

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また、コメディだけで終わらないのも沖田修一監督の映画だよな。

最後はすごく綺麗にまとまる。まとまるっていうか、なんかジーンと来る。

完全なハッピーエンドじゃないんだよね。っていうかハッピーエンドを求めるような雰囲気の映画じゃないのだけど。

出会いと別れっていうのが、きちんと描かれている。

そして、それらは悲しいものじゃなくて、木こりの岸さんと、新人監督の幸一が、それぞれの道をきちんと歩いていくっていう、前向きなものなんだよな。

交わるはずのない二人が交わって(物理的にも精神的にも)、互いにいい影響を与え合って、「じゃあ、またな」って手を振ってさよならする、みたいな。

そういう気持ちのいい終わり方なんだよな、沖田修一監督の映画って。

 

今年観たおもしろかった映画で『バクマン。』があって、あれはプロジェクションマッピングとか、サカナクションのテクノっぽい音楽とか、うまーく映画を装飾して、漫画制作って地味なテーマの映画を、すげーアクション満載な動きのある映画にして、エンターテイメント性を強くしていたけれど……。

『キツツキと雨』は逆で、まったく動きなんてなくて、展開も静かなんだけど、内側からこみ上げてくるような不思議な笑いがあって、それがおもしろい。

どちらも好きだけど、沖田修一監督の映画はどれもそんな感じだから、安心して観られるんだよなぁ。

 

なんかよく分かんないけど、ふとしたとき、別に悲しいことがあったわけじゃなく、すげーうれしいことがあったわけじゃないのに、じーんとして、なんていうか、悪い方向にいくだろうと60%くらい思っていたことの結果が40%の良い方向に転がって「あーもうなんなんだよ」って予想が外れたことからくる意味不明な怒りに惑わされつつも逆にうれしく思ってってそんなときに不意に出る涙っていうか、そーゆーのをちょっと味わえたりするような映画。

です。

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主題歌は星野源星野源が好きな人は、きっと気に入ると思うぜ……。

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